硫黄尾根の記録です(長いよ)


1993年正月 硫黄尾根の記録 

  93年、今年の正月は、例年になく良い天候であった。互いに山岳会の
 異なる我々3人組は、暮れから元旦にかけて北アルプス硫黄尾根に挑戦した。
 
 元旦はとても良い天気であり、北鎌尾根から出てきた初日の出はとても
 すばらしいものであった。また、槍平へ下る途中、ふりかえり見た、宇宙に
 続いているのではと思わせる青い青い空と太陽に陽を受け輝く白樺の木と
 白い尾根のコントラスト、あの感激は忘れることはないだろう。
 
 1.山域 北アルプス 硫黄尾根
 2.日程 1992年12月28日から1993年1月1日
 3.ルート
    28日 大阪発臨時くろよん号
    29日 大町からタクシで七倉へ       歩行時間(休憩含む)
        高瀬ダム先天出合から硫黄尾根下部へ 8時間
    30日 硫黄尾根前衛峰から硫黄岳ピーク   8時間
    31日 赤岳前衛峰から赤岳、白樺台地    8時間
     1日 西鎌尾根から千丈乗越、槍平、新穂高 6時間
 4.詳細
 **29日**
   大町駅では、朝早いと言うのに警察や遭対協会の方、テレビ局がきている。
  タクシで七倉の補導所に行き、登山届をしてお茶をもらい、テレビカメラの
  ライトに送られてさっそうと出発する。高瀬ダムまでは1時間半、夏はここ
  までタクシがきているという。夏にこれば良かったな?などと訳のわからな
  いことを考え、平坦な道を湯俣温泉まで歩く。長い道のりであったがここま
  では何も問題なし。
   
   ここから小さなほこらを左に曲がり、10分歩くと右手に30cmのケル
  ンあり。右の急斜面が硫黄尾根、まっすぐが北鎌尾根である。見ると人の後
  ろ姿が見える。尾根に出るまでは、まるでジャングルジムのような登りが
  30分続く。所々赤布があるが、ルートファインディングがむづかしい方だ。
   尾根はそんなに狭くはないが、テントを張るのによいスペースは少ない。
  我々を含め3パーティが斜面を縦に並んでテントを張った。
  **30日**
   今日は赤岳の手前の中山沢のコルまでが予定である。しかし、山行出発前
  に高層気象から読みとった予想では今日・明日が寒波の底と考えられる。
  しかしクリスマス寒波よりは10度くらいは暖かいはずであり、そう強くな
  いだろう。
 
   まだ他のパーティは出発していない。我々が一番である。1時間半ほどで
  P1に到着する。ここでアイゼンをつけていたら、2パーティに追いつかれ
  た。単独の方が左に(千丈沢)トレースをつける。3人パーティは直接登ろ
  うとするが、諦めて我々の後をついてきた。
   急な斜面を登るとながめの良いピークに出た。そこがP2だ。ここでは
  40mの懸垂下降が必要である。我々は軽量化のためケプラロープをもって
  きていた。しかし、これが癖ものであった。ザイル回収の時に小さなクラッ
  クに引っかかるし、後で切断事故も起こる羽目となった。ここで手間取り
  2パーティに引き離されることになってしまった。
   P2を過ぎ小さなピークを何度も上がり下がりして、右手に樹林帯と大き
  な斜面が見えてきたらそれが硫黄岳である。午後になり不安定となった登り
  にくい雪面をだましながら登る。
 
   樹林帯のあたりから、私はバテ始めてきた。とにかく息が出来ない。眠く
  なる。頭が痛い。「高山病なのだろうか?それともトレーニング不足か?」
  とにかくこの状況をくやみつつ、「帰ったら走るぞ。だから我に力を!」と、
  どこぞの神に祈りつつ必死に登った。硫黄岳は2554mであり、頂上は
  だだっ広くどこにでもテントが張れる。ちょうど中間あたりがくぼんでいて
  良いテン場となった。

 **31日***
   昨夜はかなり雪が降った。50cmくらいだろうか?朝からカンジキを
  はき、ゴーグルをしての行動である。ちょっと吹雪いている。
   7時にトップでスタートした。すぐに雷鳥ルンゼとなるが、雪は柔らかく
  足元を流れる。少し不気味だ。他の2パーティもすぐに追いついてきて、次
  々と懸垂する。3ピッチの懸垂の後、やがて高度差のある尾根を登り赤岳前
  衛峰のP1に出る。ここは湯俣側をトラバース。アイゼンが雪に気持ちよく
  ささり快適!
   P2かP3は尾根通しだったと思う。3人パーティはトラバースしたため
  に下りすぎてしまった様子だ。1つか2つの急な斜面をトップがリードして
  いる間に、単独行の方とお話が出来た。彼は東京のある市役所の山岳部の方
  であった。もう1パーティは浜松の人たちであると聞いた。
 
   あるピークから10mの懸垂をして、直径1mの岩のあるテラスに立つ。
  そこからは右手にルンゼがある。しかしさらに3m下がった岩の陰に支点が
  あり、左側に懸垂ができる。他の2パーティはそちらを選んだ。
   我々は岩にケプラロープをかけて懸垂したが、回収確認のためにロープを
  引いたところ、ロープの皮膜(皮膜はおそらくナイロン、内側はもちろんケ
  プラ)が破れてしまい、完ぺきにケプラ自体がむき出しとなった。どうやら、
  岩にはさまったときは、ケプラが強すぎるためかえってナイロンに力がかか
  り、まるでビニールコードを爪で引っかけてむいている様に、むけやすくな
  ったと考えられる。
 
   その後1ケ所3級程度の壁を左上し中山沢、赤岳と越え、急な雪面を千丈
  側に下り、やせた尾根を楽しみながらやがて白樺台地に到着。今日もバテた。
 
   今日は大晦日。明日はよい天気が期待できそうだし、明日には下山できる。
  というわけで、宴会が始まった。紅白は最近7時に始まるらしい。この紅白
  を聞きながら、鰻飯、鴨鍋をたらふく食った。食った。なんともう新年にな
  っているではないか!「おめでとう。本年も宜しく」挨拶をしてシュラフに
  はいる。
 
 **1日**
   今日は9時半と遅めの出発。「でも天気はいいし、のんびり行こや。」て
  な具合で、誰もいない黒部源流の山と北鎌の景色を堪能しながら、分岐点・
  西鎌尾根を楽しく歩く。千丈沢乗越につくとさすがに人も多い。槍から下っ
  てくる人の多いこと。冬とは言え、さすが槍が岳とあらためて感心する。
  ここから一息に槍平・新穂高と駆け抜け、その日のうちに大阪へ帰る。
  
   なお、途中槍平で、お酒の好きな山岳会の方々と、その酒を狙いテントを
  探していた別の山岳会の方に偶然会えたことも、滑稽であったが、「こんな
  ところで会えるなんて」と非常に感激したひとつであった。
                               大見

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