コブ尾根の記録です(これも長いよ)


1993年GW コブ尾根の記録 

    コブ尾根の記録

  アプローチと思っていたコブ尾根ですが、以外にも時間がかかってしまい
 ました。でも、核心までのほとんどをトレースをつける事ができ、思いっきし
体を動かした5日間でした。

 【日 程】1993年5月1日から5日
 【山域名】北アルプス岳沢周辺
 【山 名】コブ尾根
 【ルート】岳沢〜コブ尾根〜奥穂〜涸沢〜上高地
 【天 候】晴〜雨〜曇〜晴
 【メンバー 】大阪労山親睦登山隊 男3人
 【記 録】

 5月1日 上高地−−−岳沢−−−ルンゼ取付−−−途中の懸垂点−−−
  晴れ   7:00  9:15 10:00  11:00               14:30

            −コブ尾根1ピッチ目−−−−−取付点   設営   就寝 
       18:08     19:10 (懸垂) 20:00  0:40   3:00
 
 5月2日 起床  就寝
  雨   14:00  21:00

 5月3日 起床  取付点−−−1ピッチ目−−−3ピッチ目−−−1・2のコル
  曇   10:00  12:00         13:30      14:30   15:40  17:00

      −−−コブ尾根の頭  設営  就寝
          20:40      22:00  2:30

  5月4日 起床 コブ尾根の頭−−−ロバの耳のコル−−−奥穂ピーク−−
  晴れ  9:00     11:45   13:15  13:30     14:00 14:30

      −白出のコル−−−涸沢    就寝
       15:00      15:36    21:00

 5月5日 起床 涸沢−−−横尾−−−上高地
  晴れ  4:00 6:40   7:30   11:30

 【詳 細】

《5月1日》
 朝6時、大阪からの狭い直行バスで上高地につくと「大見さーん」という
声がきこえる?東京に嫁いでいったアーちゃん夫婦と我がぽっぽ会がタクシー
でちょうど着いたところだった。よく合流できたものだ。
 我々は、弁当を食べ会のメンバー7人に「また涸沢であおう」と別れを告げ
岳沢に向かった。河童橋はいつも途中で引き帰しており、わたるのは初めてで
ある。当然岳沢も始めてであった。
 岳沢ヒュッテは上高地に近く、穂高の眺めもよく私は持ってきた8ミリビデ
オでこれから登るコブ尾根の様子を取った。

 コブ尾根には先行2パーティが取り付いていた。小屋の横まできているデブ
リを踏み越えて、神奈川のパーティを抜き、そして急な雪渓をダブルシャフト
でぐんぐん進み、先頭のおじさんパーティを抜いてトップにおどりでた。時間
は12時を回っていた。
                  奥穂       前穂
                ジャン /\___    /\
           コブの頭 /\      \__/  \
              /\
                \   コブ    トリコニー
                 \  I峰  扇 ▲▲▲
                  \/\   沢
                  コル \↑誤
                    ↑ __ビバーク地 
                    正--- △\ 間違っての懸垂
                    /\   ↓/\
                      \/\   \
                         \   \
                          \ デブリ
                            ※
  ルートはなるべく右を取った。             ※ 岳沢小屋
扇沢への雪庇がでっぱているスカイラインを登る。        △
おじさん達を抜いてしばらく行くと絶壁が現れた。        □
「これが、1・2のコルかな?」なんていっていたら
おじさんが「ルートが違うんだよ」そして我々のスノーバーを見つけ「君達
いいもの持っているね。これで懸垂しよう。」なんていって、さらに「確保し
てやるからいけよ」というお言葉で、私は初めてのスノーバー懸垂をした。
 気持ち悪かったが、70cmのスノーバーはさすがにビクともしなかった。
(注:2人併せて100才なので、おじさんと言いましたが、そのうち1人は
 10数年前にマカルーに登ったとおっしゃていました。きっと有名な方なの
 ではないでしょうか?)

 続いていた神奈川のパーティーは敗退することにした様子で、我々のスノー
バーを抜いて「このスノーバー貸してください。後で郵送しますから」という
ので「捨てたものだから、自分達で使ってくれ。もし大阪のものがいたら、労
山かと聞いて、そうだというならそいつに渡してくれ。そこに書いてある滝上
とはうちの理事長だから、誰でも知っているので、必ず我々に戻ってくるから」
ということで、スノーバーを彼らに預けた。はたして戻ってくるのかな?

 時間は2時を回っていた。おじさんパーティーも結局敗退となり、我々だけ
になった。コブはすぐそこに見えている。ここからはザイルを出してスタカッ
トで行動するが、コブのルートがわからない。私はまっすぐ突っ込んでいった。
尾根のやや右手、扇沢がはっきり見えるスカイラインに沿ってコブに取り付く。

 めだつルンゼがあり、易しそうだが取り付いてみると結構難しい。グレード
はVI+はあるのでは?「はたしてここがルートなのだろうか?」しかし、
あちらこちらにハーケンが打ってあり、おそらく間違いないだろう。
 行くしかないな。でも余りにも難しすぎるので、荷物をおいて登ることにし
た。快適な登り、後の2人も登ってきた。
 さてどうしよう。時間は7時、もう日が暮れている。悩んでいたら、リーダ
ーが「大見さん、ここに懸垂点があるぜ。みんな間違いがわかって、ここから
逃げてるんやで。撤退や」

 2ピッチの懸垂、ザイル回収失敗の登り返し。急な雪面での設営など、夜遅
くまでの悲惨な行動だった。しかし、テントはしっかり張ったし、さらにザイ
ルでビレイしながら寝るので別に不安はなかった。
 私にとって初めての夜間登ハンであった。

《5月2日》
 雨は激しく、ただひたすら寝た一日であった。リーダーはレコード屋経営な
ので、最近のヒットソングをいろいろ解説してくれた。FMラジオはなぜか、
FM三重しか入らなかった。

《5月3日》
 曇、小雨である。今日も停滞かと思っていたら、下から上がってくるパーテ
ィーがある。5人組と2人組である。「大見さん、どないしたんこんなとこで」
と声がかかる。大阪労山の友人である。8時に岳沢を出て3時間で登ってきた
と言う。

 「こりゃいかん。はよう出発せにゃ」とあわててテントをしまい、我々も行
動を開始した。名古屋のパーティーも上がってきて、4パーティーで取り付き
がにぎやかになった。コブの取り付きは、あくまで尾根つたいで、われわれの
幕営地から左の方の雪壁を登っていく。
 そのときに気がついたが、岳沢で畳岩を見て「地層の断層が右上がりですね」
とリーダーにいったのを思い出した。すなわち左から登る傾斜は緩く、右から
はきついのである。我々は、コブの右から取り付き急な岩を登り、敗退したの
だった。

 この時点で大阪の2人は、明日帰るものがいたので、しかも先がかかりそう
だと言うことで帰っていった。「また登ろうや」の声を残して。
 尾根を少し登り、正しい取付点につく。先行パーティーは少しやばそうな岩
を左にトラバースして登っている。私は右の雪の着いたルンゼまでトラバース
して、ダブルアックスでのぼって行くことにした。途中ビレイはとれないが、
雪を払いながら安定したスタンスを掘り出して、進む。

 次のピッチはノービレイで行ける。3ピッチ目の取り付き点は大きくテント
がはれる。あとで名古屋のパーティーは時間切れのため、結局ここにはること
になった。
 先行パーティは右を行っている。ずっとハーケンがあり、いかにも簡単そう。
またぼくのリードが回ってきた。ついて行こうとすると、反対側に行けとの指
示。「この岩は左からが簡単なんや。」少しトラバースの後、緩い斜面に出る。
先行パーティーを追い抜いた。I峰のピークを越え3mのナイフエッジを渡り、
懸垂点に近づく。

 ここからはナイフエッジの下りであり、少しいやらしい。またまた、私のリ
ードである。雪山でのリードの経験は2月の大同心南稜が初めてである。いつ
もついていく私も少しは成長したのだろうか?恐さはあるが、なんとか出来る
という自信もついてきた。
 懸垂工作をして1・2のコルのナイフエッジにおりたった。もうこれで核心
は過ぎた。少しの安堵感と、はたして今日も夜間登ハンかという不安が混じっ
ていた。

 名古屋のパーティーは撤退したが、別の大阪パーティー3人組がきた。2人
初心者であるが、リーダーはベテラン中のベテランである。気の知れた連中で
ある。彼らと、5人組をここで先にやり、我々はついて行くことにした。
 と、いうのもこれで充分であった。3日もコブに取り付いていたのだし、
ルートのほとんどにトレースをつけ、核心部は全て自分達で処理した満足感に
満ちあふれていたのであった。
(あくまでも、自己満足であった。3日もかかったという悔しさは翌日現れた)

 ここから先は急登だが、問題はなかった。5人組はノービレイで、我々はス
タカットで登った。3人組はコンテだった。1・2のコルを5時に出発し、頭
についたのは8時40分だった。今日も夜間登ハンだ。稜線を吹く風は寒くめ
ちゃくちゃ強い。5人組はツェルトをかぶってビバーグしている。寒いだろう
に。
 3人組は今日中に岳沢に帰るため、すでに下山していた。我々はまたザイル
で確保して寝るはめになった。

 昼に下山した労山のメンバから無線が入った。3人組が連絡をいれないと心
配しての事だった。われわれも起きてワッチしていた。12時前、無線が入る。
道がわからず、コブの頭から天狗のコルまで4時間かかったそうだ。それから
2時間してまた無線が入る。無事岳沢に降りたようだ。我々も安心して寝る事
にした。

 【感 想】
 こうして、我々のGWのコブ尾根は終わった。それにしても長かった事か。
単に飛騨尾根のアプローチとして考えていた割にかかってしまった事ことと、
翌日4日に我々が寝ているうちに、岳沢からのパーティーが5時間で登ってき
た事にショックだった。
 ただ技術的に難しくないので(雪山初心者では不可)、実力のある中級パー
ティーにはもってこいのルートだと思います。

 【その他】
 あのスノーバーはどうなったかというと、神奈川のパーティーは、その後
前穂の登ったようすで、北尾根を登ってきた大阪労山のある会の者が前穂の
頂上で彼らに会い、降りたところで受け取って無事大阪まで帰ってきました。
 なんか不思議な気がしませんか?あのスノーバーはいろんな人のお役に立ち、
大阪、神奈川と人の手を経て再び、前穂で大阪の人の手に戻るなんて。ドラマ
ティックなものを感じませんか?

 以上、長い報告を最後までおつきあいいただき有り難うございました。
                              大見

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